オオハシのLINEスタンプはこちら

Daily Essay : vol.1 竹山食品の昆布巻き

母が竹山食品の昆布巻きを買ってきた。

昔はおせちを買ってきたりもしていたけれど、おせちを好んで食べていた父や祖父がいなくなってしまった今、おせちを買ったところで母と弟とわたしの3人では食べきれない。そこで、デパートで見つけた昆布巻きと、ついでに栗きんとん、黒豆をおせち代わりに買ってきたのだという。

母が竹山食品の昆布巻きを買ってきたのは、それが美味しいからというわけではなく(美味しいけど)、我が家にとって懐かしいものだったからだ。

時は10年以上遡る。母方の祖父と祖母がまだ健在だった頃、ふたりは昆布巻きの内職をしていた。大きな袋に入った大量の昆布が配達されてきて、それを昆布巻きの形に仕上げる作業。材料を提供され、成果に応じて賃金が出る。いわゆる問屋制家内工業のシステムで製造されるものだったのだろう。

祖母はよく「明日は竹山さんが来る日だから」と言っていた。締切前には黙々と作業していたのを覚えている。時々、昆布の中に鰊を巻くタイプのものが来ると「鰊が来たから忙しい」とさらにハイペースで作業をこなす。たまに手伝い(という名の邪魔)をしていたけど、鰊のときは手伝わせてもらえなかった。手が臭くなるかららしい。

小さな平屋だった祖父母の家で、居間の窓際に昆布巻きの作業場はあった。作業場といっても、新聞紙だったかブルーシートだったか何かを敷いて、適当な箱にベニヤ板を載せただけのものだった。祖母と祖父がふたり正座で向かい合い、昆布を巻く、かんぴょうで締める、カミソリで切り分ける、それをただひたすら繰り返していた。とんとんとん、カミソリが板に当たる音。家に染み込んだ昆布とかんぴょうの匂い。こういう風景が祖父母の家での日常だった。

そんな祖父母の家ではよく昆布巻きが食卓に上がったし、時々作ってもらった昆布おにぎりも大好きだった。昆布巻きに使う昆布をちょっと拝借して、塩をふって、あったかいごはんを包んで置いておく。しばらくしたら昆布の旨みが染みこんで、これが美味いのなんの。もう一度食べたいけれど、今後そんな機会あるだろうか。小さくカットされていない昆布を自分で買ってきて作るしかないかな。

今日、昆布巻きの匂いでそんな幼少期の記憶が呼び起こされたという話。プルースト現象?

スポンサーリンク