Twitterでたまたま目に留まった、誰かのおすすめゲーム『ウーユリーフの処方箋』をプレイしました。乙女ゲームと見せかけて、脱出アドベンチャーノベル。
複層的なシナリオの面白さに引き込まれて、しっかり沼に落ちましたので、レビュー記事といいつつ、ほぼ布教記事です。
ただ、かなり尖ったことをしている挑戦的な作品でした。
王道の乙女ゲームが好きな人には勧めにくいし、かといって乙女ゲームの文脈を全く知らない人はこのシナリオの面白さを感じにくいだろうし…と、勧めるにしてもちょっと悩ましい。
キャラクターのビジュアルなどが気になったら、試しに自分でプレイしてみてほしい。不穏な異世界ものが好きな方や、シナリオで殴られるのが好きな方なら楽しめると思います。
ウーユリーフの処方箋 -脱出×アドベンチャー×謎解き
SEEC Inc.無料posted withアプリーチ
当記事では、株式会社SEECのアプリゲーム『ウーユリーフの処方箋』のスクリーンショット画像を利用しています。当該画像の転載・再配布等は禁じられています。©SEEC Inc.
目次
ウーユリーフの処方箋とは
概要
『ウーユリーフの処方箋』は、SEECが2020年3月23日にリリースしたアプリゲーム。基本プレイ無料は無料、時間経過や課金で読み進めるチケット・スタミナ制。脱出アドベンチャーノベルです。
あらすじ
大学生のマツリは、イケメンでナルシスト。ある日、友人の更紗から、イケメンを襲う呪いの乙女ゲームの話を聞く。そのゲームがスマートフォンにインストールされたイケメンが失踪する事件が相次いでいるらしい。
噂を一蹴するマツリだったが、その日自宅で自分のスマホに、入れた覚えのない乙女ゲームアプリ『ウーユリーフの処方箋』がインストールされていることに気づく。
マツリは『ウーユリーフの処方箋』の世界に迷い込むが、そこは乙女ゲームの中とは思えない退廃的な世界で…。
システム
ノベルパート
ノベルパートでは、マツリ視点で物語の真相に迫ります。
探索パート
探索パートでは、聞き込みをしたり、アイテムを拾ったり組み合わせたりして謎解きをしていきます。
良い点
凝ったシナリオ。二段・三段構えの仕掛け
本作の最も大きな特徴は、二段・三段、いや四段と仕掛けのあるシナリオでしょう。
そうくるか〜〜〜!!!
となりました。
これを許容できるかどうか、個人の趣味によるので賛否両論出そうな感じはあります。何を言ってもネタバレになる類のシナリオなので、多くは語れません。悪いこと言わないから、何も知らずにプレイしてほしい。
スタイリッシュなアート、魅力的なキャラデザイン
不思議な世界観を形作る、スチームパンクなアートワーク。キャラクターの表情差分も細かく、背景も多数描き下ろしていて、かなり気合が入った作品であることが伺えます。
センスのいい音楽
主題歌
まずオープニングに流れる曲がバキバキにキマってる。「島爺」さんによるタイアップ曲『箱庭の理』。
挿入歌
そして挿入歌も良い。本当はこのゲームを推すポイントとして今すぐ紹介したいところですが、うっかりネタバレにつながる部分なので、あえてリンクは貼りません。何も調べず、ゲームプレイ中に初聴きしてほしい。
鳥肌体験してくれ〜
BGM
whooさん、TSANさんによるオリジナルサウンドトラック。SEEC社の過去作ではBGMやSEにフリー音源を多用しており、全曲書き下ろしサントラはこれが初の試みだそう。
やっぱりその作品のためだけに色々考えて生み出された音楽は良いものですね。作品の世界観の解像度を上げていて、この作品の良さを彩る大きな要素になっていました。良い仕事。
おしゃれだけど、どこか不安定で不穏な、絶妙な塩梅の汚し方。作品に通底する、どこか違和感のある世界観を引き立てています。耳につくようなテーマがあちこち出てきて印象的でした。
課金コンテンツの「設定資料集」で聴ける各曲のデモ版は、完成版に至るサウンドデザインのワークフローが垣間見えて興味深かった。
気になる点
読み返し機能のコスパの悪さ
メインシナリオ読破は、無課金でTrueルートを順調に進んだ場合で3週間くらい。逐一課金しない限り、ストーリーの開放や読み返しに毎回チケットを消費するので、気軽にバッドエンド回収も復習も出来ません。
プレイヤーの行動としては、多少のネタバレを覚悟で攻略情報を調べて、Trueエンド回収を優先させてしまいます。シナリオが美味しい作品なのに、開発側自らが初見プレイヤーのゲーム体験を損なうシステムにしているのが非常に勿体ない。
コンシューマーゲームのような質の高いノベルゲームなので、課金システムも特別ストーリーや読み返し機能を含めて買い切りにしてくれるなら課金で解決するんだけどなぁ。同じようなスタンスのプレイヤー、割といるんじゃないでしょうか。
無課金か重課金かという両極端ではなくて「価値に対して妥当な価格でさえあれば、課金自体には抵抗がない」くらいの微課金層へ向けた、買い切りの選択肢を提示してほしかった。
この点、後発作の『四ツ目神 -再会-』ではチケット・スタミナ制を廃止して、序盤無料・途中の章以降が買い切り型のシステムになっていました。その方がありがたい。
特別ストーリーへの重すぎる比重
このゲームの定価は特別ストーリーの¥2,580(iOS, 2021/04/14現在)の後払い式だと思った方が良い。それくらい、物語の根幹に関わる重大な内容でした。
本編で一つの物語は完結しますが、回収されない伏線や謎が残って、不完全燃焼になると思います。本編で匂わせた部分からある程度の考察はできますが、それらを明言し、丁寧に種明かしをしているのが特別ストーリー(以下、特スト)。
特ストまで含めてまた大きな一つの物語になっていて、これを見て初めて世界観の全容を理解することができるので、おまけや外伝というよりは、補完、あるいは物語の続きという位置付けです。
一通り見た上で思うのは、この内容を本編として一緒に扱うのもなんだか違うな〜、という開発サイドの事情もわからなくもない。
しかし、特ストの内容が内容だけに、補足情報で片付けられる話でもなく、本編を読んで終えた人と、特ストまで読んだ人で、得られるゲーム体験が大きく異なると言っても過言ではありません。
同じ課金コンテンツにするにしても、あの内容なら「特スト」の括りではなくて、本編の続きとして扱った方がよかったんじゃないかと思います。
課金システムと、おすすめの利用方法
前述の通り、本作は課金システムに少々難があり、特にSEECのゲームが初見だとかなりまどろっこしさを感じるシステムになっています。
結論から言うと、
- 本編を無課金 (or 微課金) で地道に読み切る。
- 本編が気に入ったら、特別ストーリーに課金。
- どハマりしたら設定資料集などに課金。
という形で、コスパ面ではかなり満足できるはず。
スローペースになるが、本編は無課金でいける。
本編を読み切る分には、無課金でOK。毎朝5時に回復するチケットで、1日5話ずつ見ていくことになります。ボリュームとしては1日15分くらいで読み切ってしまう量なので、一気読みしたい場合は課金一択です。
ただし、ストーリーを解放するために、チケットの他にミニゲームで集める「調査ポイント」が一定数必要になります。ストーリーだけ進めてもこのレベルキャップに引っかかると、こちらも課金で解決したくなってしまう。キリがないし割高なのであんまりおすすめしません。
というわけで、調査ポイントをミニゲームでコツコツ集めつつ、無料でデイリー分を読んでのんびり進めるのがコスパ良好です。
本編が気に入ったら「特別ストーリー」には課金を強く推奨
前述の通り、本編をプレイしていてこのゲームが気に入ったら、特ストだけは購入を強く推奨しします。これを読むか読まないかで、作品の捉え方が大きく変わるレベルの重要な情報がてんこ盛りでした。
特ストは全6章フルボイス。本編と違って、一気に読めて読み返しもできます。SEECの回し者ではありませんが、本編が刺さった方は、ここで公式に還元するのがよいと思います。
「設定資料集」は、メイキング好き垂涎の大ボリューム
「設定資料集」¥2,940(iOS, 2021/04/14現在)は、ファンアイテム。筆者はどうしてもBGMのメイキングが聴きたくて課金しましたが、これは完全に個人の趣味であって、万人にはおすすめしません。映画のパンフや美術展の図録を買うタイプの人向け。
課金優先度は、作品そのものを補完する特ストが最優先。その上でさらにメイキングを見たいコアなファン向けのコンテンツが、設定資料集という位置付けです。
キャラの詳細設定、デザイン画のラフや没案、開発者インタビューなど、惜しみなく見せてくれます。個人的には、お目当てだったBGMのデモ版をいろいろ聴けて満足でした。リテイクで本当にシナリオや世界観への親和性が増していくから面白い。紙版でなくデジタル版の資料集である利点を活かした良いコンテンツでした。
なお、資料集にはバッドエンド分岐を含む本編のネタバレがあるので、読むタイミングには注意しましょう。
総評
乙女ゲームの皮をかぶった、攻め気の作品。シナリオと世界観でプレイヤーを惹きつける良作でした。SEEC過去作と比較しても音楽やアートへの力の入れ具合が格段に上がっており、よりリッチな表現になっています。
他方、シナリオのぶっ飛び具合がかなり人を選ぶ作品であり、自分にとってはお気に入りの作品であるものの、誰にでも手放しでおすすめできる作品ではありません。
総合お気に入り度 | (4 / 5) |
シナリオ | (4 / 5) |
システム | (3.5 / 5) |
キャラクター | (4 / 5) |
グラフィック | (4 / 5) |
ボイス | (4 / 5) |
音楽 | (4 / 5) |
その後、SEEC作品を色々やってみましたが、美術と音楽はウーユリーフが一番良くて、シナリオについては、個人的には『紡ロジック』の方が好みでした。
作品情報
https://se-ec.co.jp/appgames/uyrh-rx/
ウーユリーフの処方箋 -脱出×アドベンチャー×謎解き
SEEC Inc.無料posted withアプリーチ
一体誰におすすめすればいいんだ?