先日、『トーベとムーミン展』に行ってきました。札幌展の会場は道立近代美術館です。
正直なところ私自身はムーミンに対して特に熱量を持っていなかったから、きっかけがなければ行かなかったと思うのですが、誘われた勢いで足を運んでみたところ、とっても良い鑑賞体験ができました。
一般1,800円という入場料を取る特別展として、相応のボリュームもテーマ性もあって満足。そして自身の創作の糧になるような、インスピレーションやヒントも得られました。
目次
『トーベとムーミン展』札幌展 概要

- 展覧会タイトル
【特別展】トーベとムーミン展 〜とっておきのものを探しに〜 札幌展 - 会期
2025年10月1日(水)〜11月24日(月・振休) - 開館時間
9:30 – 17:00(入場は16:30まで)
※10月13日、11月3日、11月24日を除く月曜と10月14日(火)休館 - 観覧料
一般 1,800 円(税込・当日券) - 会場
北海道立近代美術館
北海道札幌市中央区北1条西17丁目
展示撮影ガイドラインについて
会場では動画撮影禁止・写真撮影可(一部展示品のみ不可)となっています。
本記事ではルールに則り写真を撮影・掲載しています。
以下、展示内容のネタバレを含むレポート&感想です。
トーベの人生とムーミン

『トーベとムーミン展』と題されている通り、この展覧会ではムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンの生涯にわたる様々な創作と、その中で大きな部分を占めるムーミンの魅力が紹介されています。
▼ 公式による見どころ紹介
最初はムーミンと関係のない画家としてのトーベの絵から始まり、トーベの人生をなぞるように、徐々にムーミンの絵本や漫画などの原画が増えていく。



ムーミン谷の世界へ
絵本の中に入ったような、没入感あるコーナーも。アニメーションと音の演出で、ムーミンたちの暮らす自然の中を探索している気分が味わえる。





順路を進むと扉が。





掲載したのは展示のごくごく一部で、かなり見応えのある量の作品が並んでいますので、ぜひ現地で見てみてください。
「そういうものなのさ」
展示の最後に、ここまで会場で触れてきたムーミンたちの言葉から、好きな言葉のカードを1枚もらえます。気に入って写真を撮っておいた台詞があったので、それにしました。

あんまりだれかを崇拝すると、
本物の自由はえられないんだぜ。
そういうものなのさスナフキン – 『ムーミン谷の仲間たち』[新版]山室静訳 講談社
他の人間に意識を向けすぎると、自身の選択の自由が損なわれてしまう。たとえそれが憧れという好意的な感情であったとしても。だからほどほどにね。
というのは、私も常日頃心に留めていることでもある。こうやって平易な言葉で自分軸の大切さを説いているのが、ムーミン作品の言葉の魅力。和訳の絶妙な温度感も秀逸です。
他に迷ったのも「大切なのは、自分のしたいことが何かを、わかってるってことだよ」で、これもスナフキンの言葉です。なんとなく、私はスナフキンの哲学とは波長が合うみたい。
雑感:ムーミンはオニオオハシの到達点かもしれない
こんなこと言うと烏滸がましいかもしれないけれど、展示を見ていて「ムーミンはオニオオハシの到達点かもしれない」と感じた。というのも、いくつかの面でトーベの創作は私が自身の創作でオニオオハシを描く上で求めている美学を体現していると思うから。
ムーミンはリファレンスの宝庫

まず技術的なこと。鼻や口が描かれないムーミンは、目と動きで感情を表現しています。その表情の豊かなこと。シンプルな線画のタッチや、ちょっとした視線、ポージングの違いで、キャラクターが躍動する。トーベの技術はその表現の一つ一つが教材のよう。
もっと具体的なことを言えばキャラを構成するパーツ数や可動域がオニオオハシと比較的近いので、参考にできそうなことがたくさんありました。なんで今まで参照しなかったんだろう?これからはムーミンからも大いに学びます。それにしても、ちょっとしたスケッチの線が美しい。
創作と生活の美学
それから、作品に通底するトーベの美学にも感銘を受けました。
ムーミンの世界での物語を構成する大きな要素として「畏怖すべき自然」があります。大自然の雄大さ、恐ろしさ、美しさ。トーベは電気もガスもない島で何十年も夏を過ごすような生活を送っていたらしく(そういった彼女のライフスタイルについても展示の中で紹介されている)、それを知って「なるほどな」と合点がいった。他の誰でもない、彼女自身の人生における経験や価値観、美学が、ムーミンの世界の根っこにある。
創作ってそういうものだよな、と思うわけです。
実際に何が正しいかってことではなく、作り手としての私の感性が、トーベの創作の美学に共鳴すると言う意味で。
トーベの創作におけるムーミン谷の仲間たちの姿や大自然の風景は、紛れもなくトーベ自身の人生の影響を多大に受けています。創作と人生、そして日々の生活を切り分けず、生活と思索が醸成した美学を創作に落とし込んでいる。
似ていると言い切るのは憚られるけれど、たぶん私がオニオオハシを描いているメンタリティの延長線上、その高みにトーベの創作哲学があるのではないか。
私がオニオオハシを描き始めたのは、生き急ぐような日々の中「その日の良かったこと」忘れずにいたいと思って描いていた絵日記がきっかけであって、絵日記を一区切りした今でも、その精神性をそのままに持って創作をしています。オニオオハシは私の善性だし、このキャラクターを使った創作では、日常の小さな幸せを見つけて記録していきたい思いが根底にある。創作と私の生活は密接に結びついています。
世の中には、作者本人と作品世界を完全に切り分ける創作スタイルもあるけれど、少なくとも私の創作は、自身の人生が滲み出るようなものでありたい。
トーベは戦争でのつらい日々を送る中、救いの場としてムーミンの創作を始めたとのことです。
彼女の置かれた状況の過酷さは察するに余りあって、安易に「共感する」とは言えない。ただ、作者の生活の息遣いを感じられるライフワーク的創作という点と、イラストだけに限定せず、小説や漫画など多角的に展開しているという点で、ムーミンは私が志すべきベクトルに近い創作であり、それを極めた先の一つの到達点ともいえるでしょう。
展示の最後に、家族写真のようなキービジュアルを見て、生みの親であるトーベと、人生を共にしたムーミンたちとの、確かにそこにあった深い心のつながりを感じざるを得ませんでした。

▼ 『トーベとムーミン展』公式サイト
▼ 筆者はエッセイ本を書いたり、オニオオハシ(鳥)の絵を描いたりなどの創作をしています。







行ってよかった!