魚と小鳥を飼うことにした。額の中に。
先日、人生で初めて「原画を買う」という経験をした。自分用の記録と、作者さんへのファンレターを兼ねて、そのときの話を書き残しておこうと思う。
※ 当記事の掲載写真に関し、絵の著作権は作者のMii(@S_1003_mii)様に帰属します。
目次
Mii 個展『幻想Ⅱ』@カフェクロワッサン 札幌南1条店
とある個展の開催を告知するフライヤーを手にした。美しく青い世界に佇む魚の絵が、なんとなく目に留まる。
私はアートに造詣が深いわけではないけれど、関心はある。開催場所がしばしば利用する身近なカフェだったのもあって、フライヤーについていたカフェの割引券を片手に、軽食ついでにふらりと見に行くことにした。
それが、Miiさん(@S_1003_mii)の個展『幻想Ⅱ』だった。現在、札幌を中心にアート活動をされている。
カフェで愉しむ、青く幻想的な世界
全体的に青く幻想的な雰囲気の作品が多く統一感がある中、時々表情の違う作品もある。普段は白い壁が続く店内が華やかになっていた。
間近で見る原画は美しい。フライヤーで目を引かれたメイン画『青の王』は、近くで見ると微妙な色合いのグラデーションや、繊細な筆遣いを感じる凹凸がよくわかる。
他の作品も色々と展示されている中で、小鳥(おそらくルリビタキ)を優しい色合いで描いた『ちいさな青』という作品にも目が留まった。ふわっとしたかわいらしい鳥が、これまたかわいい金色と薄緑の重なったような、不思議な色合いの額縁に収まっている。ここでもやっぱり鳥に惹かれるのだろうか。
何の気なしにちょっとした興味だけで見に行った個展で、久しく行っていなかった美術館の気分を味わえた。原画から感じるエネルギーで何かが満たされる感覚は心地良い。
「絵は買える」という気づき
展示された絵を眺めていて、ふと、絵の下のキャプションに視線を落とすと、タイトルと一緒に値段が書かれていた。何十万もするようなものではない、手が届く価格。
それを見てはたと気づく。そうか、絵って買えるのか、と。
これまで「絵を買う」ということを自分事として考えたことはなかった。美術館はけっこう好きでも、絵を販売しているような展示会や画廊に日々足を運ぶほど美術通でもないし、原画というものに対して「でもきっとお高いんでしょう?」という先入観があって、自分で買うなんて考えもしなかった。
しかし目の前で展示されている絵は、どれも十分手が届く価格帯だった。無闇にポンと出せる金額ではないとはいえ、初めて絵画に対して、現実的に「買える」という感覚を持った。
これは単に「目に留まった絵が安かったから欲しくなった」という話ではない。そうではなくて「絵を買うという選択肢を初めて認識した」ことに意味がある。
気に入った絵に対して、物販コーナーのポストカードで満足せずに「原画を買う」という選択肢が、初めて自分の中に生まれたのを自覚した。
それから、絵のある生活を夢見るようになった。
好きなカフェに飾ってあった好きな絵が、うちにあったら素敵では?
そんな突拍子もない(と無意識に思い込んでいた)アイデアを、もう消し去ることができなくなった。
後日、お茶がてら再び何度か訪店して作品を見て「やっぱり好きだ」と確認する作業を経て自分で納得したところで、お店に詳細を問い合わせ、初見から気に入っていた2作品の購入手続きを済ませた。
憧れの「絵のある生活」 は、意外と気軽に手に入る
真っ白な壁がのっぺり続くだけの平々凡々な自室の風景が、新しい窓で潤うのが楽しみでならない。きっと、他人の素晴らしい仕事がいつも目に入るというのはいいものだ。そんな期待がある。
おそらく私のように、アート作品を欲する潜在的な需要というのは見えてこないだけで案外そこらに眠っているのだと思う。絵を買うお作法が分からなかったり、身近な機会に恵まれなかったりするだけで、本当は興味を持っていても、アートとの関わり方として「絵を買う」という選択肢そのものを認識していない人は多いはずだ。
資産として投資のために買うのではなく、心の充足のために買うアートは、何も著名な作家のプレミア価値のついた絵である必要はない。
たまたまご縁のあった作家さんの「これ」という琴線に触れたお気に入りの一枚を手にすることもまた贅沢なのだ。
それに実際、画材や額装の原価に加えて、作家さんが制作にかけた時間と労力とスキル、そして思い入れを鑑みれば、値付けられた以上の価値があるものを破格で出してくれているので、対価以上に贅沢な体験を得ていると思う。
生活を豊かにするアートは本来もっと身近なものなのだろう。他の趣味にかけるのと大して変わらない出費で「絵のある生活」は手に入る。
地元のアートシーンをカジュアルに楽しむ
新たな選択肢を得た私の日常は、より文化的に豊かになった。どんな絵と一緒に暮らそうか。あの絵を買ったらどこに飾ろうか。そんな妄想が膨らむ、日常の中のささやかな非日常。人生で久しく味わっていなかったワクワク感。
初めて「絵を購入する」ということをしてみてから、地元のアートシーンを気にかけるようになった。知らなかっただけで、地元のアートシーンは面白い。大々的に広報する美術館だけでなく、今日もどこかで小さな展示がある。
音楽でもメジャーや東京の有名なハコが全てではなくて、生活の中で気軽に行ける近場の小さなハコで地元ミュージシャンの上質な演奏を聴く幸せがある。界隈の外での知名度に関わらず、高い実力を備えた素晴らしいプレイヤーは大勢いるものだ。
それと同じように、アートも大きな美術館に所蔵された高尚なものが全てではなくて、身近で触れる機会のある地元の作家の作品を気軽に堪能し、気に入った作品をお迎えして自分の生活に取り入れるというカジュアルなスタンスもまた、一つの楽しみ方なのだろう。
後日談:納品されました
個展の会期が終了し、購入した作品を受け取ってきた。家で見ると、カフェで見るより大きくて迫力があるし、誰に気を遣うこともなく、繊細なタッチをじっくり見ることができてしみじみと良い。そのうち、絵が生活に馴染んだ姿も、後編として記録したいと思っている。
Miiさん、素敵な絵をありがとうございます!